2011年7月5日火曜日

腸管出血性大腸菌(O157, O104等)の患者数とHUS患者数、死者数の比較



今年(2011年)の 5月から発生していたドイツでの腸管出血性大腸菌 O104 による一連の食中毒ですが、6 月後半になってやっと収束してきました。現在日本ではあまり報道がないですが、学術論文などでは起因菌や感染者数について情報が出てきているようです(NEJM: 21696328, The Lancet)。

この食中毒では、HUS (Hemolytic-uremic syndrome) が多数発生しており、感染者数が多いだけでなく、重篤化する人や亡くなる人が多く、感染者に対する HUS の割合も 3 割程度と高くなっていました。

また、このドイツの O104 の状況を追いかけている際に、食中毒の患者さんの数を比較している記事を見かけ、規模を見るのに患者数は重要だけれど、HUS の患者さんの数や亡くなった方の数についても検討したほうがいいのではないかと思っていました。

そこで、腸管出血性大腸菌(O157, O104等)の患者数とHUS患者数、死者数の比較を、リンク先の記事と、その元資料(Review)をもとにおこなってみました。Review の性質上、O104 の食中毒と今回のドイツの食中毒のみのデータの比較になります。
あまり丁寧には調べていません(中の論文を全部は読んでない)ので、参考程度にご覧ください。
(一番下の 2011年の日本のユッケの件は、数はあまり多くありませんが、参考に載せてみました)

場所 患者数 HUS 患者数 死者数 起因菌 経路 Pubmed 備考
Japan 1995 12680 121 3 O157 radish sprouts(?) 10221032  
Germany 2011 4173
(3222)
892
(810)
49
(39)
O104:H4 sprouts(?) NEJM: 21696328 The Lanect
Canada 2000 2300 27 7 O157:H7 drinking water 12638998  
USA, New York 1999 1000 >11 2 O157:H7 well water 10506035 全文
USA 2000 788 O157:H7 raw beef, cross contamination of other foods    
USA 1992-93 700 (501?) 45 3 O157:H7 hamburger at fast food restaurants 7933395  
Scotland 1996 633 2 0 0157 sewage contamination of drinking water 8885663  
Canada 2001 521 22 2 O157:H7 minced beef and caribou 7747090  
Scotland 1996 512 >22 17 O157:H7 meat from one shop 11467789 全文
Scotland 1996 503 O157:H7 lunch foods - 全文pdf
UK 1997 332 O157:H7 restaurant food 9107072  
USA Kentucky 1999 329 0 O157:H7 beef - 全文
Japan
(参考)
2011 160 31 4 O111:H- raw beef - 数は多くないが参考に

比較してみると、ドイツでの HUS の件数が段違いに多いことがわかります。
この原因としてはいくつか考えられますが、(1) 報告されている患者数が少ない(2) HUS が発生しやすかった、ということが大きく分けて考えられます。

今回の食中毒では、ドイツ内(と EU 内)の広い範囲で発生したため、(1) の中毒症状が出たけれど、患者数に含まれていない患者が他よりもいる、ということも考えられるかもしれません。




ただ、(2) について、前述の論文でどのような年齢層で HUS が発生しているか示したグラフがありますが(下図)、今回は年齢に関係なく HUS が発生しています


以上から考えると、単純に未報告の患者がいたと考えるより、HUSが発生しやすい状況(菌)であった可能性が強いのではないかと思えます。よく読んではいませんが、論文では、各種耐性についても記載されているようです。また最近の報道では、「大腸菌のDNAを調べた結果、2種の交配種であることが判明。うち1種が人間などの腸内に付着しやすい性質を持っており、大腸菌の毒素の体内吸収を速めたとみられる。」(2種交配し毒性強まる 欧州大腸菌で英チーム発表 共同通信)との報道もあります。

7 月初めの現時点で、まだ完全には収まっておらず、スプラウトの先の感染源(種など)の特定も行われているようです(Nearly 4,180 Sickened in E. coli O104:H4 Outbreak)。規模や菌のようすを見ると危険性が高い状況ですし、日本でもより詳しく状況を確認できるようになること含めて、今後の状況と報道の進展に期待したいです。