今年(2011年)の 5月から発生していたドイツでの腸管出血性大腸菌 O104 による一連の食中毒ですが、6 月後半になってやっと収束してきました。現在日本ではあまり報道がないですが、学術論文などでは起因菌や感染者数について情報が出てきているようです(NEJM: 21696328, The Lancet)。
この食中毒では、HUS (Hemolytic-uremic syndrome) が多数発生しており、感染者数が多いだけでなく、重篤化する人や亡くなる人が多く、感染者に対する HUS の割合も 3 割程度と高くなっていました。
また、このドイツの O104 の状況を追いかけている際に、食中毒の患者さんの数を比較している記事を見かけ、規模を見るのに患者数は重要だけれど、HUS の患者さんの数や亡くなった方の数についても検討したほうがいいのではないかと思っていました。
そこで、腸管出血性大腸菌(O157, O104等)の患者数とHUS患者数、死者数の比較を、リンク先の記事と、その元資料(Review)をもとにおこなってみました。Review の性質上、O104 の食中毒と今回のドイツの食中毒のみのデータの比較になります。
あまり丁寧には調べていません(中の論文を全部は読んでない)ので、参考程度にご覧ください。
(一番下の 2011年の日本のユッケの件は、数はあまり多くありませんが、参考に載せてみました)
場所 | 年 | 患者数 | HUS 患者数 | 死者数 | 起因菌 | 経路 | Pubmed | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Japan | 1995 | 12680 | 121 | 3 | O157 | radish sprouts(?) | 10221032 | |
Germany | 2011 | 4173 (3222) | 892 (810) | 49 (39) | O104:H4 | sprouts(?) | NEJM: 21696328 | The Lanect |
Canada | 2000 | 2300 | 27 | 7 | O157:H7 | drinking water | 12638998 | |
USA, New York | 1999 | 1000 | >11 | 2 | O157:H7 | well water | 10506035 | 全文 |
USA | 2000 | 788 | ? | ? | O157:H7 | raw beef, cross contamination of other foods | ||
USA | 1992-93 | 700 (501?) | 45 | 3 | O157:H7 | hamburger at fast food restaurants | 7933395 | |
Scotland | 1996 | 633 | 2 | 0 | 0157 | sewage contamination of drinking water | 8885663 | |
Canada | 2001 | 521 | 22 | 2 | O157:H7 | minced beef and caribou | 7747090 | |
Scotland | 1996 | 512 | >22 | 17 | O157:H7 | meat from one shop | 11467789 | 全文 |
Scotland | 1996 | 503 | ? | ? | O157:H7 | lunch foods | - | 全文pdf |
UK | 1997 | 332 | ? | ? | O157:H7 | restaurant food | 9107072 | |
USA Kentucky | 1999 | 329 | 0 | ? | O157:H7 | beef | - | 全文 |
Japan (参考) | 2011 | 160 | 31 | 4 | O111:H- | raw beef | - | 数は多くないが参考に |
比較してみると、ドイツでの HUS の件数が段違いに多いことがわかります。
この原因としてはいくつか考えられますが、(1) 報告されている患者数が少ない、(2) HUS が発生しやすかった、ということが大きく分けて考えられます。
今回の食中毒では、ドイツ内(と EU 内)の広い範囲で発生したため、(1) の中毒症状が出たけれど、患者数に含まれていない患者が他よりもいる、ということも考えられるかもしれません。
ただ、(2) について、前述の論文でどのような年齢層で HUS が発生しているか示したグラフがありますが(下図)、今回は年齢に関係なく HUS が発生しています。
以上から考えると、単純に未報告の患者がいたと考えるより、HUSが発生しやすい状況(菌)であった可能性が強いのではないかと思えます。よく読んではいませんが、論文では、各種耐性についても記載されているようです。また最近の報道では、「大腸菌のDNAを調べた結果、2種の交配種であることが判明。うち1種が人間などの腸内に付着しやすい性質を持っており、大腸菌の毒素の体内吸収を速めたとみられる。」(2種交配し毒性強まる 欧州大腸菌で英チーム発表 共同通信)との報道もあります。
7 月初めの現時点で、まだ完全には収まっておらず、スプラウトの先の感染源(種など)の特定も行われているようです(Nearly 4,180 Sickened in E. coli O104:H4 Outbreak)。規模や菌のようすを見ると危険性が高い状況ですし、日本でもより詳しく状況を確認できるようになること含めて、今後の状況と報道の進展に期待したいです。