2011年3月16日水曜日

共産党の「申し入れ」が外れているのに、原発の事故を「人災」と騒ぐ人たち

0. 「申し入れ」を見て騒ぐ人たち

今回の地震で起こった福島の原発の事故について、この共産党の申し入れ(「福島原発10基の耐震安全性の総点検等を求める申し入れ」)を聞かなかったから起った、東京電力の人たちの人災だと騒いでいる人たちがいます(例:東浩紀氏の語る、『内ゲバばっかり』の『外圧に強い』国 日本 中程など。検索すればたくさん出ます)。
はてブでも、この申し入れの 4 番が特に的確だとたくさん書かれ、東電が2007年に既に指摘されていた事を無視していたために状況が悪くなった、というようなコメントが書かれていますはてなブックマーク-福島原発10基の耐震安全性の総点検等を求める申し入れ)。

でも読んでみると分かりますが、この申し入れでの指摘、むしろ外していると思うのですが?


1. 今回の福島の原発の事故原因

今回の事故の原因は、あまり細かく書く必要はないと思いますが、原子炉が制御棒挿入により停止した後、原子炉内から熱を取り除かなければいけませんが、これがうまくできなかったことで発生しました。
具体的にみてみると、地震発生後すぐは、ちゃんと冷却する系統が動いていました。しかし、津波によって電源が失われ、冷却できなくなりそれぞれの原子炉の熱の制御が困難になりました。つまり津波による電源への影響が問題だった訳です(専門でないので用語等適当です)。

実際に時間経過を詳しく見てみますと以下のようになります。
3月11日 14時46分頃 地震発生

原子炉の冷却に重要な外部電源が停止しても、非常用ディーゼル発電機はうまく起動し、注水することで冷却ができていました。しかし、津波がきて (15:34)、非常用ディーゼル発電機が故障停止し(15:41)、オイルタンクが津波により流出(15:45)して電源が不足するようになりました。つまり、どのような形かは不明ですが津波の到達が原因で非常用ディーゼル発電機等の電源が喪失し、注水不能(冷却不能)になったことが強く推測されます。この経過を見る限り、注水不能の原因は寄せる津波が原因で、引き波ではないでしょう。
(なお、時刻が分からない外部電源の故障は、もしかしたら津波より前かもしれません。ただ、その後非常用ディーゼル発電機が自動起動しているので、可能性は低いと思います)


2. 「申し入れ」で示されている危惧

一方、共産党の申し入れでも今回うまく機能しなかった冷却系の問題を指摘しています。(今回は一般論の 1, 3, 5 と、断層の話 2 はおいておいて、はてブでも特に焦点となっている 4 について話します。断層の話は大事かもしれませんね。よく分からないですが)

福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなることが、すでに明らかになっている。これは原子炉が停止されても炉心に蓄積された 核分裂生成物質による崩壊熱を除去する必要があり、この機器冷却系が働かなければ、最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。そのため私た ちは、その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた。
柏崎刈羽原発での深刻な事態から真摯に教訓を引き出し、津波による引き潮時の冷却水取水問題に抜本的対策をとるよう強く求める。

この文では確かに冷却系の問題を書いていますが、冷却系自体の問題を指摘するのは当たり前というか、ちゃんと制御棒が入れば、あとは冷却するだけなので、誰でも指摘刷る部分かなと思います。(素人目に見ても、地震時の問題は、炉が破壊されないか、制御棒が入るか、冷却できるかが、などになるかな?と思います。)
そしてより細かく見ていくと、冒頭部分で「チリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなることが」と書かれています。そして、一番の結論としては最後に、「津波による引き潮時の冷却水取水問題に抜本的対策をとるよう強く求める」と書かれています。
予備知識として、チリ地震による津波について簡単に調べてもらうといいのですが、あの津波の際には、引き潮が発生したのですよね。共産党さんのサイトの記述では(チリ地震が警鐘 原発冷却水確保できぬ恐れ-引き波の脅威)「1960年のチリ地震津波では6メートルほど海面が下がり、町史には海底が見えたと記録されている。」とのことです。一方、原発は海水を組み上げて冷やす系があります。
つまり、この項目 4 では、地震の津波による引き潮によって組み上げができなくなり、冷却できなくなるのではないかと指摘しているのですね。 
今回発生したことと真逆ではないですか?今回、津波で破壊されるまでは、冷却系は機能していました。このような引き潮による影響は、少なくとも今回は起こらず(むしろ起こりにくい?)、寄せてくる津波による影響が大きいという結果でした
今回の地震と事故は、申し入れの指摘が的から外れていることを示した、良い例証になっていると考えられます。
なお、共産党さんが引き潮が問題になるという考え方をしていたことは、こちらのページ(チリ地震が警鐘 原発冷却水確保できぬ恐れ)で確認できます(去年 3 月ですが)。


3. なぜ、この的外れの指摘を鋭いと感じてしまうのか?

一方、この指摘を鋭いと感じている方が結構いらっしゃいます。
なぜ、逆の指摘であるのに鋭いと感じてしまうのでしょうか?

ここからは私の勝手な考察ですが、(1) この申し入れでは、原因はともかく結果である冷却ができなくて発生した事象自体が正しく記述されているから(2) 報道で"津波により電源が故障"したことが原因であるとはあまり強く報道されていないから(現在は冷却自体に注目が集まっているので)ということがあるかなと思います。
(1) については共産党さんちゃんと勉強していてすごいと思いましたが、この事故の形式については、NHKの解説員の方が地震後に丁寧に解説できるように、既に普通に専門家に予想され対策され、ある程度周知されていることなので、特段すごいわけでもないでしょう。問題なのは冷却系という大きなくくりでなく、課題となる事柄です(自動車の整備不良で考えてみても、具体的な整備不良の場所を指摘しなければ意味がないです。具体的箇所を間違えていたらなお困ったことになります)。
もしくは受け手側として (3) この申し入れの文章を読んで、引き潮について書かれていることを読み取ることができなかった場合や、(4) そもそも冷却系がなんでうまく働かなかったか、まで考えが及んでおらず今回の件から教訓を全く得られていなかった場合 なども要因として考えられるかもしれません。こういう場合に特にわたしから言うことはありません。


もし誤解されていた方がいたら、上の要因のうちどれだったか教えていただけると嬉しいです^^


4.最後に

この申し入れを実施していれば、今回の地震による事故の悪化は防げたでしょうか?
引き潮による取得困難を防ぐために、引き潮の時間に必要な水量をプールに貯めておくなど対策をとれば、津波で電源は損傷しなかったでしょうか?
水を使わない冷却方法に、液化ナトリウムやCO2ガスを用いた方法があるようですが、これをもっと推し進めて、電源を使わなくても手軽にいっぱつで冷却できる理想的な装置を開発すれば、あるいは防げたかもしれません。ですが現実的にはむりですよね。
電源がなくても冷却できる/電源を確実に確保できることはあくまで理想であり、現実的には電源の数を増やしなるべく確実に近づけるか、冷却系を増やすことで実装しているのだと思います。事故防止のどの分野でも同じ感じではないでしょうか。

根本原因を的確に判断できない人には、教訓をえることはできないでしょう。
あなたは、共産党の申し入れで書かれているように、今回の地震と原発の状況から「地震から教訓として何を取り入れて対応」しますか?

PS.
はてブでも何人かの方が、同じ指摘をしていますね。でも少なすぎです…。ほんとにどうしてこうなったの…。



5. この記事の意義(2011.03.19 追記)

いくつかご意見ご指摘いただいているので(Ceron.jp すんか (sunka) の科学系: 共産党の「申し入れ」が外れているのに、原発の事故を「人災」と騒ぐ人たち )、それに対するコメントと、特に強調していなかったこの記事の意義について少し。


[ご指摘 1, 2]
  • 指摘の間違いを証明したところで、原発の正しさの証明にはならない。
  • あのページとそのブクマだけで判断したら仰るとおりかもしれんね。今そこに意味があるのかはわからんけど。
記事の趣旨として、原発の是非については語ろうとは思っていないです。この「申し入れ」をもって東京電力が招いた人災というのはおかしいということと、描写されている現象が同じ事で思考停止し、本当の原因を考えないことは問題だと指摘したかったために、書きました
この記事により、
  1. 少なくとも申し入れでは的確な指摘は行えておらず、東電が「申し入れ」を受け入れなかったための人災ではないことを示し、がんばっている東電の方の手をなるべく煩わせなくていいように出来る。
  2. この生地の指摘により原因をより深く考えていただき、安全性の向上に資することが出来る。
と考えています。この 2 点は、現状では重要なことかと思います。
また、この東電の人災という意見に反論することが「意味がない」と言うのなら、反論される意見を言った人たちにも、「その意見は意味がない」と言うべきかもしれません。そんなことしてる場合なの?って。


[ご指摘 3]
  • 吉井英勝議員(京都大学工学部原子工学科)の話=「津波でも、海面が上がると冷却ポンプが水没する危険があり、海面が下がると冷却水喪失の恐れがある。」 → 海面の上昇(津波)と下降(引き潮)の危険性を指摘した
予想質問です。
吉井英勝議員は、水位があがって水没する可能性を多少なりとも考えていることは分かりますが、共産党の「引き潮」の可能性をプッシュする方向性をそちらのほうに変えませんでした。つまり、真意は分かりませんが、ある程度想定はしていても、「引き潮」のほうが可能性が高いと考えていたのではと思います
また、当該「申し入れ」に寄せる津波については書かれていません。これも共産党の当時の視点を示す傍証となると思います。そして、「申し入れ」書かれていないのでは、具体的かつ重要な指摘として、東京電力には伝わらないのではないでしょうか?
これらを勘案する限り、正直「申し入れ」自体も指摘を外しており、吉井英勝議員も寄せてくる方の津波をそこまで重要と考えていたようには思えません(思っていたら、申し入れ等で指摘すべきです)。10 メートルを超える大津波が来る場合について、吉井英勝議員が検討できていればよかったかと思いますが…。実際起ってみないと質問者含め誰もが本当に起こるんだろうか?って思っちゃうレベルの前提(津波)なのが難点です…。


[ご指摘 4] (2011.04.07 追記)
  • Carnot1824 外れていると言うためには、「引き潮には耐えた」ことを証明しなければならない。/↓id:sunka は事故の原因を吉井議員になすりつけようとするクズ。
仮に引き潮が影響を与えていたとすると、津波がくる前に取水ができなくなりトラブルが発生し冷却に影響が出ていると考えられますが、記事に書いたように「津波で破壊されるまでは、冷却系は機能して」いたと考えられますし、津波で電源がなくなった後もバッテリーで動いている間は冷却に致命的な影響は見られませんでした(逆にバッテリーがなくなってから影響が見られた)。 多少取水しにくくなったなど(万が一)あったかもしれませんが、 共産党の「申し入れ」に見られるような、「機器冷却海水の取水が出来なくなること」が原因で冷却できなくなった訳でないことは明らかでしょう。
苦しい批判ですね^^。
ツイートでも書いていたりするのですが、個人的には何か影響があったことを示唆するものがあったら純粋に面白そうなので教えていただきたいレベルです。
責任をなすりつけると言われても困りますね。記事の意図で書いてあるように、「申し入れ」(の特に 4 番)があたっているとして過剰に持ち上げるのはおかしいと主張したいだけですので。評価されるべきところを評価されず、間違っているところを褒められるのは嬉しくないと思いますよ、普通の感覚なら。
また、コメント欄でも書いていますが、引き波などに拘泥せず、バックアップ電源と寄せる波にこだわり、何らかの対策をとれば今の状況よりはよかったかも、と遠い目で言っているだけです (-ω-*)。現実的には系統を増やしたり外部からの電源を増やしても、あの津波では厳しかったのでは、とも思いますが…。



6. 謝辞(2011.03.19 追記)
最後に、記事の確認や充実に貴重な意見を頂いた @_taka51 さんに感謝いたします。ご私的により充実した記事になりました。
また、ご意見、RT 頂きました @nasunet さんや、ご記事をご紹介いただいた皆様にも感謝いたします。
TL のみなさまも、ありがとうです。