2010年12月3日金曜日

「(3) 問題があるとした論拠に、関係者へのインタビューがあったが、それは事実か?」の議論、論点について

  全体の論点の項目立て( (3) とか)についてはこちらで確認ください。


◆ 「(3) 問題があるとした論拠に、関係者へのインタビューがあったが、それは事実か?」の一連の流れについて

  この点 (3) については、朝日新聞の「患者出血「なぜ知らせぬ」 ワクチン臨床試験 協力の病院、困惑」(http://www.asahi.com/health/clinical_study/101015_shakai.html)に、医科研の共同研究者の意見が掲載され、それに対して、まずオンコセラピー・サイエンス社が抗議文で反論し、関連研究者も反論した、という流れになっています。
  反論では、医科研が関係するネットワークのなかで朝日新聞に取材を受けた人を調査し、条件にあう人(大阪大学の方)を見つけたが、その人は記事に書かれたような内容のコメントはしていないと言っており、記事がおかしいのではないかというものでした (朝日新聞社に対する抗議文提出のお知らせ http://www.oncotherapy.co.jp/news/20101022_01.pdf)。

  • 朝日新聞の記事抜粋(http://www.asahi.com/health/clinical_study/101015_shakai.html)
がんペプチドワクチンの臨床試験で起きた「重篤な有害事象」(消化管出血)を他施設に伝えていなかった東京大学医科学研究所。被験者の安全を考え、別の施設の有害事象に関する情報提供を求めた他の大学病院の関係者は「なぜ知らせてくれなかったのか」といぶかった。
(略)
  • オンコセラピー・サイエンス社の抗議文より抜粋 (http://www.oncotherapy.co.jp/news/20101022_01.pdf)
第2 掲載記事にねつ造の疑いがあること
 また、掲載記事には「記者が今年7月、複数のがんを対象にペプチド臨床試験を行っているある大学病院の関係者」に取材した旨の記載がございます。
 東京大学医科学研究所で、改めて独自に調査を行い、「複数のがんを対象にペプチド臨床試験を行っている大学病院」に該当するすべての大学病院に問い合わせを行ったところ、今年の7月に記者から取材を受けたのは大阪大学のみということが判明した、と連絡がありました。ところが、大阪大学で取材を受けた関係者は掲載記事に記載されているような回答は全くしておらず、取材をした記者に対して電話で抗議したとのことでした。
 このように、掲載記事は十分な取材活動に基づいておらず誤りがあるうえ、ねつ造の可能性が極めて高いと思われます。

  現在、この議論は上記の反論後、朝日新聞が「確かな取材」というコメント (医科研記事、癌学会など抗議 朝日新聞「確かな取材」 http://www.asahi.com/science/update/1023/TKY201010230371.html) と「本件記事2の当該記述は、事実を端的に述べたものです。」 (朝日新聞社からの回答書 http://www.asahi.com/health/clinical_study/101119_kaitou.html) とのみしかしていないため、現状で最も焦点となる、
  • 朝日新聞が記事で述べたのは、この大阪大学の方のことでよいのか?
  • 上記の人であっているとすると、その人が本当に言ったのか言っていないのか?
の 2 点が明らかになっていません(この点は以下の、◆ 内部調査であることについて で触れています)。



◆ (3) に関する個人的な意見

  上段で書いたとおり、取材を受けた人が大阪大学の方でよいのか、ホントに記事に書かれたことを言ったのかが分からないため、以下は状況からの推測と判断になります。
  結論から言うと、朝日新聞は「朝日新聞社からの回答書」( http://www.asahi.com/health/clinical_study/101119_kaitou.html) にて、「事実を端的に述べたものです。」 と書いてありますが、論旨が変わらないよう適切に要約されていたか疑問に感じています。一般論として、インタビューを使用する際にインタビュー(取材)を受けた人の論旨が変わるように抜粋するのは、法律上は分かりませんが、ダメではないかと思います。
   まず、ここで議論の対象となっている出血に関して意見をする場合には、医薬品の作用とは無関係に、疾患の症状として消化管出血が起こる頻度が高いため、そこを言及しないと話し手と受け手の前提条件をあわせることが出来ず、出血の評価ができないという重要なポイントがあります。(医療従事者同士なら暗黙の前提で言わないことはありえます。)医薬品と無関係に出血が起こりうるのか、どの程度の頻度で起こりうるかが認識できなければ、そのうえに被せて発生する医薬品の有害事象は評価できません。大学ではどこの研究でもコントロールとの比較が大事だと言われますよね。意見をきかれた際に疾患症状である可能性を言及しない医師(もしくは医療従事者)がいたら、むしろそちらのほうが疑問に感じます。特に医療関係者以外にコメントをするなら、出血に関する知識がないことが想定されるので述べるのが普通ですし、そうしなければ患者さんでも報道の方でも適切に理解してもらえません。
  このような前提条件(他に出血例が既に周知報告されていたことなども含む)は報道でも、読む人に分かってもらうため当然重要になりますが、朝日新聞の当該記事では書かれていません。こういう観点で見ていくと出血に関する前提が書かれていなかったのは、(i) インタビューを受けた人が重要な点を言わないおかしな人だったか、(ii) 朝日新聞が都合のいい部分を切り抜き脚色したのかになるかと思いますが、両者の意見を見ていると後者 (ii) に近いのではないかと推測しています。朝日新聞が症状により出血が起こるという都合の悪い部分は、指摘されても適切に説明しないことなどから考えると、原因は (ii) なのかなと思うのです。取材を受けた人も「知っていれば、まあ多少よかったかもね」ぐらいは言ったりしたのかも知れませんが、それ以外の前提や一般的には副作用の可能性は低いということを省き、論旨が変わってしまったのではないかなと思っています。
  そもそも、この記事を掲載する前に、インタビューをした人に話したことと違っていないか、内容を確認してもらうべきなのでは、と思うのですけれどもね…(一般論として、できるだけ記事をかいたら取材対象者に見せて内容確認をしてほしいです。取材時の内容と全然違う、という意見は、ちらほらききます)。
   上記推測が正しいかは、結局朝日新聞が取材の内容をあかし、医科研およびインタビューを受けた人と議論をしなければわかりません。取材の際に言った言わないの話になるでしょう(後述)。追加情報がでれば今後変わっていきますが、個人的に (3) の議題は、朝日新聞 vs 医科研 は 2 : 8 で医科研優勢、朝日新聞の取材、というか編集が怪しいかな、と考えています(取材は確かだけどw、編集がイクナイかも)。
 (そもそも、医療関係で前提となる重要な条件を話さない人(いたとしたら)も理解できないし、その重要な点を報道しないでミスリードする報道機関も理解できないんですけどねぇ…)



◆ 内部調査であることについて

  この流れの中で、医科研と関連研究者が第三者に頼んで調査を行わず、内部で調査を行ったのはあまり良くなかったのでは?という意見があります。個人的には、多少の影響はありうるが、どちらの方法でも結果的に主論には影響を与えないのではないか?と思ってます。以下、少し説明です。

まず、内部調査と第三者調査で何か違いが出るかと考えてみると、
  • 対象者が正確に確定できない可能性
  • 対象者の意見が両方で変わってしまう可能性
  • 調査の信頼性の問題
があると思います。(主な部分です。他にもある、かもしれません。)
  1 つめの、対象者を誤る可能性については、内部調査でも第三者調査でもほとんど変わらないのでは?と思います。該当する人が複数人いたり、該当者がいない、という場合だったら異なるかもしれませんが、今回の場合、報道で出た情報で 1 人に特定されており、内部調査でも第三者調査でもこの点では差異がなかったのではと思います。それに、朝日新聞の担当者さんが取材記録を持っていると思われるので(なかったら別の論点で問題だけれど、それはないんじゃないかな)、仮に間違っていても指摘を受けることが出来ますし、医科研が隠し立てできる状況にもないですし。
  2 つめについては、多少影響があるかもしれません。第三者に調査され見つかって意見を言う場合と、内部で身内(といえるのかな?)に調査され意見を言うのでは、するコメントが違ってくる可能性はあります。ただ、どちらにしても、社会や研究者内、新聞社との関係や風当たりは同じであるため、コメントの内容は部分的には変わっても大きく変わらないのではないかと思います。特に今回のように議論が長期になるほど、方法の違いによる影響は低くなりそうです(周囲の意見を受けやすくなるため)。どちらの方法にしても、取材を受けた方と朝日新聞(の担当者さん)による、言った言わないの議論に帰着しちゃいます。この点についても朝日新聞が、少し情報を示して反論をしないと進まない話ではあります。
  3 つめについては、やはり朝日新聞(の担当者さん?)が 1、2 に反論をすれば、医科研の内部調査で、1 と 2 の主要論点について適切に調査をして結論を出しているのかもおおよそ分かってくるので、結果的にどちらの方法でも変わらないのではと思います。朝日新聞がこれ以上この論点について反論をしなかった場合は、争点になるかもしれませんが...。
  以上、3 つをみると争点は 1、2 に絞られていて、最終的に誰が取材を受けた?言った?言わない?という部分に帰着せざるを得ないため、内部調査でも第三者調査でもあまりかわらなかったのでは?と思います。また、第三者での調査でも朝日新聞の反論がなければ、2 つの争点の正しさが正確に分かりません。もちろん第三者で行えば、朝日新聞の再反論がなくても情報として信頼性が多少高くなり、よりよかったと思いますが、結局、現状と同じ膠着状況になったのではと思います。



◆ 今後の議論の展開について

  上記議論の通り、1、2 の点について朝日新聞(の担当者さん?)がもう少し情報を出して反論なり訂正なりをしてもらわないと、議論が進まないと思います。内部調査でも第三者調査でも、朝日新聞が意見を出さない限り調査の主要論点の正しさや事実が明らかにならないのが現状かなと思います。取材した方の情報を公開するときに発生する難しさはよく分かりますが^^;。ただ、現状、取材を受けたと目される人がそういう論旨では言っていないと述べていて、それに適切に反論していない以上、朝日新聞に疑いの目を向けざるを得ない状況だと思います。
  なお、今後、朝日新聞が意見を出さなかった場合、嫌な話ではありますが訴訟等で議論がなされる可能性があるかもしれません(オンコセラピー・サイエンス社が抗議文で上述の話を述べており、訴訟も検討しているため...。医科研、というか東大のほうも訴訟を検討しているようではあります)。できればそういう事態になるまえに、議論をして解決してほしいです。



◆ 感想

  それにしても取材に応じるって(取材する時も?)、リスク高いですね...。こういう言った、言っていないにまき込まれたらと思うと、かなり怖いです...。脇が甘いと大変なことになりますね。
 大阪大学の方は、今出ている情報ですと、何らかの場で証言する可能性もあるんでしょうか?訴訟で争点にあげるかによるのでしょうか? 自衛や正確性のために、取材を受けるときには(また取材をする際にも!?)、記録が必須な状況なのかもしれません。


(2010.12.03)

2010年11月15日月曜日

A.「治験」と「臨床試験」が違っていることの是非 の細論点

  この件については、いま医療界でも議論が進んでいる話ですし、専門でもない個人の話ですので不正確なところもあるかもしれません。とりあえず、朝日新聞が主張している部分について、まず整理し、細論点を考えたいと思います。特に「治験」と「臨床試験」の違いに関する議論が行われているのは、以下の記事です。
  • 記事 1.
    (医を創る)臨床研究、新薬承認に壁 大学などの研究者、データを申請に使えず https://aspara.asahi.com/blog/mediblog/entry/UK1giYMjBO
  • 記事 2. 【オピニオン】 臨床試験を考える 〜 福島雅典・臨床研究情報センター長インタビュー 〜 http://www.asahi.com/health/feature/opinion101110_interview.html
  • 記事 3. 【オピニオン】 臨床試験を考える 被験者保護する仕組み必要 http://www.asahi.com/health/feature/opinion101110_editor.html
上の主な記事をまとめると、とりあえず大きく 2 つ論点があると思います(もしかしたら、他の記事にいれたほうがいい論点があるかもしれません)。
  • A-1. 法律上で縛られていないために重篤な有害事象が問題視されない可能性がある
  • A-2. 「臨床試験」が「治験」と別であると、二度手間になったりして、「治験」および承認が遅れる
  なお、この裏というか「臨床試験」と「治験」が一緒になりにくい理由については、「治験」と一緒にすると「臨床試験」でやっていた試験の作業がかなり増えるということがあります。その分質は上がる、かもしれません。さらに加えると、新薬の「治験」と「臨床試験」に関する議論と、承認済みの薬の「臨床試験」とでは状況が違うので、A-1、A-2 それぞれにおいて異なった議論が必要でもあります。
  この 2 つのことだけ?分ける必要あるの?と思うかも知れませんが、これは結構種類が違います。1 つめは安全性の話で厚生労働省-PMDAっぽい話ですが、もう 1 つは経済産業省っぽい(というと微妙ですが)開発の話が多分に含まれています。この論点 2 つをごっちゃにして記事を書かれると本当に分かりにくいので真面目になんとかしてほしいです。分けて議論しないと、課題解決に結びつかないと思います...。
  そもそも医科研の件は、記事 3 の患者保護の安全性の話 (A-1) が主でしたが、その後に出た、記事 1 は A-2 の話をしていて、今回出た記事 2 は A-1 と A-2 の話がかなり混ざっています。この細論点は完全に可分でない部分もあるかもしれませんが、ある程度分けられる話だと思います。論点を整理して報道してほしいです。なお、整理するとわかりやすいですが、A-2 の例として医科研の話は適切なんでしょうか?
  もし私なら、(A-1) 安全性と (A-2) 新薬が世に出る効率の問題があり、「臨床試験」と「治験」を統一することを考えると、それぞれにつきこういう利点と不利益が存在する、実例として (A-1) には~~、(A-2) には~~のような事例が存在する、って話を進めると思います。センセーショナルにするのではなく、真摯に議論するならば、ですが。こういう形での議論でかつ、適切な実例を挙げていれば多くの「臨床試験」、「治験」関係者は喜んで議論に乗るのではないでしょうか?
  この 「A.「治験」と「臨床試験」が違っていることの是非」について、細論点への分解と、それに対する賛否、各種意見の把握と吟味、および細論点にあう適切な事例の選択ができなかったことは、問題提起や議論をする上での朝日新聞側の失点だと思います。
  以上、A の区分についてはこれぐらいで...。細かな A-1, A-2 と A 全体の議論はまた別に~(ってほんとにできるのかなぁ^^;)


(2010.12.03 微修正)

2010年11月14日日曜日

朝日新聞の医科研の臨床試験の報道問題、論点整理

  • 注:以下の記事はあくまで、専門でない個人で考えた、意見のひとつとして読んでいただけたら幸いです。一応、事実関係と意見は表現的に分けてわかるように書けたらいいなと考えています。

  朝日新聞の医科研の臨床試験の報道の問題について、その問題の全体像をこの記事ではまとめたいと思います。詳しいことは実際の朝日新聞の記事や、その他医科研の主張、オンコセラピーサイエンス社の主張、患者団体の主張などを確認してください。

  この報道全体としては、医薬品の「治験」と「臨床試験」が異なっていて、それが問題ではないかという問題提起をするために行われた、と朝日新聞は述べています。
  その問題提起の題材として、医科研の「臨床試験」が使われ、それにオンコセラピー・サイエンス社がまき込まれ、患者団体としても影響を受けたという構図になっています。またこの問題の取り上げたときに批判した部分が、今行われている「臨床試験」の多くに影響を及ぼし兼ねない内容であったため、「治験」や「臨床試験」に関わる医療従事者も意見を述べているのが現状です。
以上を争われている個別の論点に分解すると、
主論の 2 点、
  • A「治験」と「臨床試験」が違っていることの是非
  • B 上記の争点に関して、医科研の「臨床試験」をあげることが適切か
と、その題材としてあげられた医科研の「臨床試験」が
  • (1) 実際に臨床的に問題になるのか?重要性があるのか?
  • (2) 臨床的に問題があるなら法的責任はあるのか?
  • (3) 問題があるとした論拠に、関係者へのインタビューがあったが、それは事実か?
  • (4) オンコセラピー・サイエンス社が関係あるとされているが、本当に関係があるのか?
  • (5) 中村教授が関係あるとされているが、本当に関係があるのか?
  • (6) 上記の題材としてあげた医科研の「臨床試験」に対する取材について、医科研側の話を聞いており、医学的にも素人目にもその意見は妥当であるにもかかわらず、一連の報道で掲載しないのはなぜか?
  • (7) 医科研の「臨床試験」について、(6) も含め、はじめから結論ありきの報道姿勢ではなかったか? 集めた情報全体を見通して全体像を伝えているか。
  • (8) 混合診療で問題ではないか?(ネットでは公開されていない記事での議論?)
になります。
  他に、あまり関係ない部分で「ナチス・ドイツ」をだしてくるなど、不適切な印象操作をしようとしているのでは?と個人的に思うところもあります。ただここは小さなことなので論点には含めませんでした。
(「ナチス・ドイツ」の件は私以外にも他にも指摘している方がいます。)

  今回の問題は、論点が多くて整理がつかないところと、A の是非の部分の問題が難しいために、分かりにくい問題になっています。特に A、B の大きな話と、下の個別の論点の主従関係が分からないと、理解しにくいです。しかし、上記の議論になっている論点で整理して記事や意見を見てみると、あまり詳しくない方でも、A 以外については議論がよくわかると思います。A についてはさらに細かな論点があるので別に論点をまとめます。


(2010.12.03 フォーマット微修正)